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井田哲司『ウナギ』(岩波新書)

「ニホンウナギ、絶滅危惧種へ」のニュースが届いたのは、この本を読み終わって数か月後だった。さもありなんとおもわれた。

小さなころはなかなか食べられれなかったウナギが、近年ではスーパーで比較的安価に売っているので、これは何かの進歩かと漠然と思っていたのだが、とんでもない。単にウナギの稚魚を日本だけでなく台湾・中国で大量に集めて養殖していたのである…。

本書は前半がウナギの神秘極まる生態とその解明の物語。後半がウナギをめぐる社会とのかかわりという構成で、科学の本としても、社会問題の本としても興味深く読める好著だ。

なにしろ稚魚を養殖しようとしても、養殖ウナギはほとんど雄になってしまっていて産卵できない!自然界でないと性的に成熟しないのだ。そこから始まり、本来太平洋の深海で生まれる孵化したばかりの稚魚のえさをめぐる悪戦苦闘など…。採算が取れる完全養殖ウナギへの道はまことにけわしく、生産のめどは立っていない。

ひるがえって川をさかのぼろうとするシラスウナギ(これを捕えて養殖する)を巡る争い…。密輸あり、捕獲地での銃撃戦あり、利権をめぐっての人間社会の構造がもろに出ている。

また、天然ウナギを保護する環境の問題。いかに生育力が強いウナギといえど、コンクリートで固められたダムを這い登るのは容易ではない。また、逆に海へ戻るウナギの行く手に水力発電所があれば、水路の中を滑り降りタービンで粉砕されてしまう。これもまた容易ならぬ問題だ。
これでは絶滅危惧種になるわけである。

絶滅危惧種の報道の時、「別に食べられなくても良い」といった声があったことは、人間の身勝手とその無自覚の凝縮ではないだろうか。ウナギは人間に食べられるために生きているのではない。別の意味の危機感を持たねばならないのだが…。

本書では「水産」ということへの目を開かされた。普段何気なく食べている水産物も、沖縄水産高校の校歌の歌詞に反して決して「無尽蔵」ではない。
賢く取り、育て、そして利用する知恵が必要という自覚は、少なくとも食べる人~市民~は持っていなければいけない。

自然科学の本としても、環境(社会)問題の書としても、この書はお勧めである。

また、ウナギを巡る状況が好転することを願う。

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