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ドーデー

恋人ができたら真っ先に読ませたいのはドーデーである…、と書くとロマンチックに過ぎようが、桜田佐氏の名訳で岩波文庫の『風車小屋だより』や『月曜物語』を読んだ私にとっては本音であった。今流行の「大人のドリル」ではないが、その美しい文章を原稿用紙に写していたときもある。
南フランスの郷土色と、自然を愛する心、底に流れる人間味、そしてユーモア、文芸を愛する心というところが魅力の源泉といえよう。

才能を持った男が世間に潰される悲劇を描いた「金の脳みそを持った男」。小心な信仰心を持っていながら酒をやめられない「ゴーシェー神父の保命酒」。悲痛な恋物語「アルルの女」(いずれも『風車小屋だより』)。
そして『月曜物語』からは「ベルリン攻囲」「わるいアルジェリア兵」「プシヴァルの時計」「バヴァリヤ」など。ユーモアあふれ気の利いたタッチがお気に入りだ。

使われる言葉もいい。「七面鳥に魚の小骨が一本もないように」(「キュキュニャンの神父」)「二人を並べてみると、同じ型で鋳造した二個の美しいギリシャのメダルだとも言えましたろう」(「ベルリン攻囲」)などなど。

「法王のらば」という作品に「せみの図書館」というのが出てくる。「七年間足げをたくらんでいた法王のらばみたいなやつだぞ」という慣用句の意味を知るために、笛吹きに勧められて作者は「せみの図書館」に出かける。要するに林の暗喩で、その中で「一週間研究」し、素晴らしい物語を見つけ出すのだ。

中でも白眉中の白眉は「星」。山あいの羊飼いの街のお嬢さんへの憧れの物語は心を打つ。羊飼いはその後どういう生涯を送るにせよ。あの晩の事を決して忘れないであろう…。
今この本、岩波文庫では手に入らないらしい。全く惜しいことである…。

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